看護師の退職金はいくら?勤続年数別の相場と計算方法を勤務先タイプ別に解説
最終更新日:2026年10月
看護師の退職金は勤務先の設置主体で制度が異なりますが、大企業のモデル退職金では勤続10年・自己都合で約182万円、勤続30年で約1,771万円が目安です(中央労働委員会「退職金、年金及び定年制事情調査」)。
ただし、退職給付制度がある企業は全体の74.9%にとどまり、約4人に1人の職場には制度自体がありません(出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」)。正確な金額を知るには、勤務先の退職金規程(退職手当規程)を開くのが一番確実です。
相場の数字から計算方法、勤務先タイプ別の制度の違い、税金、年金まで、厚生労働省・国税庁・独立行政法人の公的資料を根拠にまとめました。記事中の金額はすべて目安です。個人の正確な金額は、勤務先の規程で必ず確認してください。
目次
- 看護師の退職金はいくら?勤続年数別の相場早見表
- そもそも退職金とは?看護師が知るべき支給条件の基礎
- 退職金の計算方法|自分の金額を4ステップで出す
- 【勤務先別】看護師の退職金制度の違いを比較
- 退職金に税金はかかる?退職所得控除と手取りの計算
- 退職金と年金で考える看護師の老後資金
- 転職すると退職金は損?勤続リセットの考え方
- 求人票で退職金の有無を見分けるチェックポイント
- 看護師の退職金に関するよくある質問
- まとめ
看護師の退職金はいくら?勤続年数別の相場早見表

看護師の退職金は勤務先の設置主体で制度が異なり、資本金5億円以上・従業員1,000人以上の大企業のモデル退職金では勤続10年・自己都合で約182万円、勤続30年で約1,771万円です。国立病院機構など国家公務員に準じる公的機関系では、自己都合の平均支給額は勤続10〜14年で約277万円、30〜34年で約1,675万円です。勤続年数別の相場を、勤務先タイプ別に整理しました。
民間病院・一般企業に準じた退職金の相場(勤続年数別)
大企業(資本金5億円以上・労働者1,000人以上)のモデル退職金では、大学卒・自己都合で勤続3年が34万円、10年が182万円、30年が1,771万円です。
| 勤続年数 | 自己都合退職 | 会社都合退職 |
|---|---|---|
| 3年 | 34万円 | 69万円 |
| 5年 | 63万円 | 121万円 |
| 10年 | 182万円 | 305万円 |
| 20年 | 761万円 | 1,021万円 |
| 30年 | 1,771万円 | 2,054万円 |
出典:中央労働委員会「退職金、年金及び定年制事情調査」(令和3年調査)のモデル退職金(大学卒・管理・事務・技術職)を基に作成。調査対象は資本金5億円以上かつ労働者1,000人以上の企業。なお、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」では、大卒で勤続35年以上の定年退職者の1人平均退職給付額は2,037万円とされています。
上表は大企業のモデル値で、看護師固有の統計ではありません。看護師の退職金は勤務先の設置主体で大きく変わるため、一般的なレンジの参考値として捉えてください。
国立病院機構・公的医療機関系の退職金水準
国立病院機構や公立病院など国家公務員の制度に準じる職場では、自己都合退職の平均支給額は勤続5〜9年で85万円、10〜14年で277万円、30〜34年で1,675万円です。定年退職では30〜34年で1,992万円、35〜39年で2,304万円に上ります。
| 勤続年数 | 自己都合(平均支給額) | 定年(平均支給額) |
|---|---|---|
| 5年未満 | 25万円 | ― |
| 5〜9年 | 85万円 | ― |
| 10〜14年 | 277万円 | ― |
| 15〜19年 | 526万円 | ― |
| 20〜24年 | 933万円 | 1,309万円 |
| 25〜29年 | 1,368万円 | ― |
| 30〜34年 | 1,675万円 | 1,992万円 |
| 35〜39年 | 1,951万円 | 2,304万円 |
| 40年以上 | 2,122万円 | ― |
出典:内閣官房内閣人事局「退職手当の支給状況(令和5年度)」を基に作成。国家公務員(常勤職員)全体の平均値であり、看護師個人の金額は俸給月額によって変わります。定年列は主な勤続区分の抜粋です。
看護師の退職金は他職種と比べて多い?少ない?
看護師の平均年収は約519万7,000円(平均年齢41.2歳・平均勤続年数9.4年)です(出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」、2025年3月公表)。国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」における給与所得者全体の平均年収478万円と比べると、平均を上回ります(出典:国税庁統計を整理したコメディカルドットコムの解説)。
一方、退職金は勤務先の設置主体で構造的に差が出ます。東京都の調査では、中小企業の「医療、福祉」業のモデル退職金は、同調査の大学卒全体モデル(1,091万8,000円)を下回る結果が出ています(出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」、2022年12月公表)。年収は平均以上でも、退職金は「どのタイプの職場に勤めるか」で決まります。
このH2のまとめ:大企業のモデル退職金では勤続10年で約182万円・30年で約1,771万円、公的機関系は10〜14年で約277万円・30〜34年で約1,675万円が目安です。
そもそも退職金とは?看護師が知るべき支給条件の基礎

退職金は法律で支給が義務付けられておらず、制度がある企業は74.9%です。支給には勤続3年以上を条件とする職場が最も多く、退職事由(定年・会社都合・自己都合)によって金額も変わります。まずこの3点を押さえておきましょう。
退職金は法律で義務付けられていない|制度がある職場は約75%
退職金(退職手当・退職一時金とも呼ばれ、本記事では「退職金」に統一します)に、労働基準法上の支給義務はありません。労働基準法第89条でも退職手当は「定めをする場合に記載する事項」(相対的必要記載事項)とされ、就業規則や退職金規程に定めがなければ法律上は支払われない仕組みです(参照:労働基準法(e-Gov法令検索))。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付制度がある企業は74.9%で、5年前の80.5%から低下しています。裏返せば、約25%の職場には退職金制度がない計算です。「看護師なら退職金は当然出る」と思って入職すると、あとで困ることになります。
退職金がもらえるのは勤続何年から?「3年」が分かれ目
平成30年就労条件総合調査の集計では、退職金の支給に必要な最低勤続年数は、自己都合退職で「3年以上4年未満」とする企業が56.2%と最多です。次いで「1年以上2年未満」が15.0%、「5年以上」が10.9%となっています(出典:厚生労働省の調査資料)。
半数以上の職場にとって、「勤続3年」が最初の壁です。ただ、15.0%の職場は1年から支給するため、「3年未満はゼロ」と決めつけるのも早計です。自分の職場の条件は就業規則で確認しましょう。
定年退職・会社都合・自己都合で退職金額はどう変わる?
退職事由によって支給率が変わります。自己都合は定年より低く設定されるのが一般的です。国家公務員の体系を例に取ると、勤続5年の支給率は自己都合3.0に対し、定年・勧奨退職は5.0、整理退職は7.5です(出典:内閣官房内閣人事局「国家公務員の退職手当」、資料公表時点の値)。
| 退職事由 | 勤続1年の支給率 | 勤続5年の支給率 |
|---|---|---|
| 自己都合 | 0.6 | 3.0 |
| 定年・勧奨 | 1.0 | 5.0 |
| 整理退職 | 1.5 | 7.5 |
出典:内閣官房内閣人事局「国家公務員の退職手当」(資料公表時点の支給率)。また、定年前に勧奨退職した場合には、勤続年数に応じた割増措置が設けられています。
このH2のまとめ:退職金は義務ではなく制度がある職場は74.9%、支給の壁は勤続3年、自己都合は支給率が低い――この3点です。
退職金の計算方法|自分の金額を4ステップで出す

看護師の退職金は「退職日の基本給(俸給月額)×退職理由別・勤続年数別の支給率」で計算されるのが基本で、国家公務員退職手当法に準じる制度では勤続5年の支給率は自己都合3.0・定年5.0です。例えば基本給30万円・勤続5年・自己都合退職なら、退職金は30万円×3.0=90万円と計算できます。自分の金額は、次の4ステップで出せます。
【図解:退職金計算の4ステップ】
「①勤務先の退職金規程を確認 → ②退職時の基本給を特定 → ③勤続年数と退職事由の支給率を確認 → ④基本給×支給率で計算」という流れです。①を飛ばして一般論だけで計算すると、規程とのずれで誤差が出ます。
STEP1 勤務先の退職金規程・就業規則を確認する
計算の出発点は、勤務先の規程の確認です。確認先は総務課・人事課・労働組合。使用者には就業規則を労働者に周知する義務があり(労働基準法第106条)、事業場への備付け・交付等で内容を確認できます。公的機関では規程が公開されている場合も多く、独立行政法人国立病院機構は「職員退職手当規程」を公式サイトで公開しています。
国立病院機構「職員退職手当規程」(平成27年2月20日規程第25号)は、第1章 総則、第2章 退職手当の計算(第4条〜第8条)、第3章 在職期間の計算、第5章 特別な場合の退職手当などで構成されています。
出典:独立行政法人国立病院機構「職員退職手当規程」
規程上は「退職金」ではなく「退職手当」と表記される点に注意してください。どちらも同じものを指します。
STEP2 退職時の基本給(俸給月額)を確認する
計算の土台になるのは、給与明細の「基本給」の欄です。夜勤手当や資格手当、通勤手当は原則として計算基礎に含まれません。
看護師は基本給の伸びが緩やかな職種です。厚生労働省の職種別平均賃金(時給換算)では、経験1年で1,487円、10年で1,987円、20年で2,122円と、20年かけても1年時点の約1.4倍にとどまります(出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」)。この数値は基準値に能力・経験調整指数を乗じた推計値で、個人の実賃金カーブを示すものではありません。それでも、退職金を左右するのは基本給よりも「支給率の伸び」という構造は読み取れます。
STEP3 勤続年数と退職事由の支給率を確認する
支給率は勤続年数と退職事由の組み合わせで決まります。国家公務員退職手当法では、11年以上25年未満勤続した後の定年退職等の場合、1〜10年の期間は1年につき1.25(100分の125)、11〜15年が1.375、16〜24年が2.0と、勤続が長くなるほど1年あたりの割合が上がる設計です(出典:国家公務員退職手当法(e-Gov法令検索))。
自己都合退職は、条文上は1年につき100分の100で計算した額に、勤続1〜10年の者は100分の60を乗じる構造で、結果として1年につき0.6相当と低く設定されています。
STEP4 基本給×支給率で退職金を計算する
具体例として、基本給30万円・勤続10年・自己都合退職のケースを計算します。自己都合は1〜10年の期間が1年につき0.6相当のため支給率は6.0。退職金は30万円×6.0=180万円です。
基本給30万円・勤続5年・自己都合(支給率3.0)なら90万円、同じ勤続5年でも定年・勧奨(支給率5.0)なら150万円になります。この計算例はe-Gov掲載の現行条文に基づく簡易試算で、退職手当の調整額・調整率は考慮していません。内閣人事局の資料版の支給率表(勤続10年・自己都合7.5)とは数値が異なる場合があるため、正確な金額は勤務先の規程で確認してください。
このH2のまとめ:退職金は「基本給×支給率」で計算でき、規程確認→基本給特定→支給率確認→計算の4ステップで自分の目安を出せます。
【勤務先別】看護師の退職金制度の違いを比較

看護師の退職金は、勤務先の設置主体によって根拠となる規程から異なり、「国立病院機構・公立」「日赤・済生会等」「民間病院」「クリニック(中退共)」「社会福祉法人(WAM共済)」の5類型に分けられます。制度がない職場も約25%存在します。
【図解:退職金制度の4つの構造】
看護師の退職金制度は「公務員型(国立病院機構・公立病院)」「法人規程型(日赤・民間病院)」「共済型(中退共・WAM共済)」「制度なし」の4つの構造に整理できます。自分の職場がどれに該当するかで、計算方法も確認先も変わります。
【比較表】設置主体別・退職金の根拠規程と計算方法まとめ
| 設置主体 | 根拠となる規程・制度 | 計算方法の特徴 | 確認先 |
|---|---|---|---|
| 国立病院機構 | 職員退職手当規程(規程第25号) | 基本給×支給率(国家公務員に準拠) | 機構の規程公開ページ |
| 公立病院・地方独法 | 地方公務員の退職手当条例等、または法人の規程 | 国家公務員退職手当法に準じるケースが多い | 勤務先の総務課 |
| 日赤・済生会・厚生連 | 各法人の退職金規程 | 法人ごとに異なる | 各法人の人事部門 |
| 民間病院・医療法人 | 就業規則・退職金規程 | 法人ごとに異なる(中小は低めの傾向) | 就業規則 |
| クリニック・小規模事業所 | 中小企業退職金共済(中退共)が多い | 掛金月額×加入期間+運用益 | 中退共公式サイト |
| 社会福祉法人・介護施設 | 社会福祉施設職員等退職手当共済(WAM共済) | 計算基礎額×支給乗率 | 福祉医療機構(WAM) |
国立病院機構の退職金(旧国立病院・療養所系)
国立病院機構の職員は非公務員の法人職員ですが、退職金は「職員退職手当規程」に基づき、国家公務員に準じた体系で計算されます(出典:機構の規程公開ページ)。計算式は「退職手当額=退職日の俸給月額×退職理由別・勤続年数別支給率」です。
計算例として、俸給月額25万円・勤続3年・自己都合退職の場合、国家公務員に準じる支給率(1〜10年は1年につき0.6相当)で簡易計算すると、支給率1.8で25万円×1.8=45万円となります。これは調整額等を考慮しない簡易試算です。正確な支給率・金額は機構の規程PDFで確認してください。また、この規程を含め、一定の最低在職期間(例:3年)を満たさない退職では退職手当が支給されない規定を置く職場があります。
公立病院・地方独立行政法人の退職金
公立病院は、地方公務員として採用される「公務員型」と、地方独立行政法人の職員となる「非公務員型」で根拠が異なります。いずれも国家公務員退職手当法に準じた体系が多く、11年以上25年未満勤続後の定年退職等では、支給割合が勤続10年以下で1年につき1.25、16〜24年で2.0といった構造です(出典:国家公務員退職手当法(e-Gov法令検索))。
日赤・済生会・厚生連など公的医療機関の退職金
日本赤十字社・済生会・厚生連などの公的医療機関では、職員は公務員ではなく、各法人の退職金規程が根拠になります。支給条件や水準は各法人の規程で定められるため、入職時の雇用契約書や就業規則で確認するのが確実です。
民間病院・医療法人の退職金
民間病院・医療法人は、就業規則や退職金規程が支給の根拠です。東京都の調査では、中小規模の医療・福祉業のモデル退職金が全体の大学卒モデルを下回る結果が出ており(出典:東京都「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」)、大規模病院と中小病院で差が出やすい領域です。同調査は令和6年版でも「定年制、退職金」が調査されており、最新の数値はそちらで確認できます。
クリニック・小規模事業所の退職金(中退共が多い)
クリニックなど小規模事業所で多いのが、中小企業退職金共済制度(中退共:中小企業が掛金を積み立てる国の退職金制度)への加入です。掛金月額は5,000円から30,000円までの16種類から事業主が選択し、掛金は全額非課税(損金・必要経費)で、新規加入時には国の助成もあります(出典:厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度のしくみ」)。
中退共の退職金は掛金と加入期間で決まり、例えば掛金月額2万円・勤続35年なら約1,000万円が目安です(出典:中退共 Q&A)。ただし、掛金納付月数が11か月以下の場合は原則として退職金が支給されません。短期での退職を考えている人は注意してください。
社会福祉法人・介護施設系の退職金(WAM共済)
社会福祉法人の施設で働く看護師は、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の「社会福祉施設職員等退職手当共済制度」に加入しているケースが多いです(出典:厚生労働省)。
計算式は「退職手当金=計算基礎額×支給乗率」で、国家公務員の制度におおむね準じます。ただし計算基礎額は本俸月額そのものではなく、62,000円〜360,000円の区分で定められた額を使う点に特徴があります。WAM公表の支給例(普通退職の場合)は、勤続5年・本俸20万円で49万5,900円、10年・22万円で114万8,400円、20年・28万円で572万4,600円です(出典:WAM「社会福祉施設職員等退職手当共済制度マニュアル」平成25年版)。
退職金制度がない職場もある|確認する方法
退職給付制度がない企業は全体の約25%です。入職前に以下の3つで確認できます。
- 求人票の待遇欄に「退職金制度」の記載があるか確認する
- 就業規則・退職金規程を確認する(事業場への備付け・交付による周知が使用者に義務付けられています)
- 面接時に「退職金制度の有無と支給開始の勤続年数」を質問する
このH2のまとめ:看護師の退職金は5類型の制度に分かれ、根拠規程も計算方法も勤務先ごとに異なります。まず自分の職場の類型を特定しましょう。
退職金に税金はかかる?退職所得控除と手取りの計算

退職金には所得税・住民税がかかりますが、国税庁の定める退職所得控除により勤続20年以下なら「40万円×勤続年数」、20年超なら「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」が非課税枠となります。退職金がこの控除額以下なら税金はかからず、勤続10年なら400万円以下は非課税です。計算方法と手取りの目安を、順に見ていきます。
退職所得控除の計算式と勤続年数別の控除額早見表
退職所得控除(退職金から差し引かれる非課税枠)の計算式は、国税庁が次のように定めています。
退職所得の金額は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」で計算し、退職所得控除額は勤続年数20年以下が「40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)」、20年超が「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」
出典:国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、1年に切り上げます。この計算式で控除額を出すと、次の表の通りです。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 5年 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 |
| 15年 | 600万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 25年 | 1,150万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.1420の計算式を基に作成。
手取りシミュレーション(勤続10年・30年の2ケース)
国税庁の計算手順(出典:タックスアンサー No.2732)に沿って、看護師の典型ケースで手取りを試算しました。いずれも「退職所得の受給に関する申告書」を提出している前提です。
| 前提条件 | ケース① | ケース② |
|---|---|---|
| 勤続年数・退職金 | 10年・180万円 | 30年・1,700万円 |
| 退職所得控除額 | 400万円 | 1,500万円 |
| 課税退職所得 | 0円(控除以下) | (1,700万−1,500万)×1/2=100万円 |
| 所得税(復興特別所得税含む) | 0円 | 100万円×5%×102.1%=51,050円 |
| 手取り額(所得税のみ考慮) | 180万円 | 約1,694万9千円 |
参考として、国税庁の計算例では勤続11年・退職金800万円の税額は91,890円、勤続30年・課税退職所得400万円の税額は380,322.5円と示されています。上表はあくまで試算例で、住民税は別途かかります。個別の税務判断は税理士等にご相談ください。
退職金が非課税になるケース
退職金が退職所得控除額以下なら、税金はかかりません。勤続10年なら400万円以下、20年なら800万円以下が非課税の目安です。
注意点がひとつあります。勤続5年以下の「短期退職手当等」(役員等以外)は、控除後の金額のうち300万円を超える部分に1/2計算が適用されません。短期間で高額の退職金を受け取る場合は税負担が重くなる仕組みです(出典:国税庁 No.1420)。
このH2のまとめ:勤続20年までは年40万円の非課税枠があり、看護師の退職金は控除内に収まるケースが多く、課税されても数万円規模です。
退職金と年金で考える看護師の老後資金

看護師の老後資金の柱は退職金と厚生年金です。老齢厚生年金(基礎年金含む)の平均月額は14万6,429円(令和5年度)。平均勤続年数9.4年の看護職では、退職金だけに頼る老後設計は難しい面があります。
看護師の年金はいくら?厚生年金の平均額
厚生労働省年金局の統計(令和5年度)によると、老齢厚生年金の受給権者全体の平均年金月額は14万6,429円です(出典:厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(e-Stat))。男女間で平均額に差があります。女性が多い看護職なら、全体平均を鵜呑みにせず、自分の加入記録に基づく見込み額を「ねんきん定期便」で確認しておきましょう。
退職金+年金で老後資金は足りるか
看護師の平均勤続年数は9.4年です(出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)。勤続10年前後で退職を繰り返すと、退職金は1職場あたり数十万〜200万円程度にとどまりやすく、厚生年金も加入期間・報酬水準で変動します。足りるかどうかは働き方と加入期間で大きく変わり、一概には言えません。退職金と年金の両方を見通して、不足分に備える動きが必要になります。
退職金を増やす現実的な方法
退職金を増やす現実的な方法は、主に次の3つです。
- 勤続年数の「壁」(3年・5年・10年)を意識したキャリア設計をする
- 役職・専門資格で基本給を上げ、退職金の計算基礎を引き上げる
- 入職時に退職金制度のある職場を選ぶ
職場探しに転職エージェントが向くのは、退職金規程まで含めて待遇を比較したい人です。自分で求人票や就業規則を読み解ける人は、公的求人媒体で自力で進める方法もあります。どちらの進め方でも、年収・賞与・手当は幅で把握し、退職金を含めた総額で比較してください。
このH2のまとめ:厚生年金の平均は月約14.6万円で、退職金と年金を合わせた老後設計が必要です。
転職すると退職金は損?勤続リセットの考え方

転職すると勤続年数がリセットされ、退職金は目減りするのが一般的です。ただし厚生年金は転職しても加入期間が通算されるため、「転職=全損」ではありません。
看護師の平均勤続年数は9.4年|退職金が育つ前に辞める実態
看護師の平均勤続年数は9.4年、平均年齢は41.2歳です(出典:厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)。また、日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」(2025年3月31日公表、調査期間2024年10月1日〜11月15日、有効回答3,417施設・有効回収率42.3%)によると、正規雇用看護職員の離職率は11.3%、既卒採用者では16.1%に上ります。多くの看護師が、退職金が大きく育つ勤続20年に届く前に職場を移っているのが実態です。
転職による退職金の目減りを数値で比較
基本給30万円の看護師が、勤続3年で自己都合退職を2回繰り返した場合と、同じ職場に10年勤続した場合を、国家公務員型の支給率で比較します。
| 勤務パターン | 支給率の考え方 | 退職金の試算 |
|---|---|---|
| 3年×2職場(自己都合) | 0.6×3年=1.8(×2回) | 30万円×1.8×2=108万円 |
| 10年勤続(自己都合) | 0.6×10年=6.0 | 30万円×6.0=180万円 |
出典:国家公務員退職手当法の支給割合(自己都合は勤続1〜10年で1年につき0.6相当)を基にした仮定計算。退職手当の調整額・調整率は考慮しておらず、実際の金額は勤務先の規程により異なります。同じ6〜10年働いても、支給率の伸びの違いで約72万円の差が生じる計算になります。
転職しても退職金の損を減らす方法
厚生年金は転職しても加入期間が通算されるため、年金面ではリセットされません(参照:日本年金機構)。退職金も、共済制度によっては再加入時に加入期間の取り扱いへ配慮する仕組みがあります。転職先の制度は事前に確認しておきましょう。転職を勧める・止めるのではなく、退職金面の影響を数値で把握したうえで判断する材料としてご活用ください。
このH2のまとめ:転職で退職金は目減りしますが、年金は通算されるため、影響は退職金に限定されます。
求人票で退職金の有無を見分けるチェックポイント

求人票の「退職金制度あり」という表記だけでは、実際にいくらもらえるかは分かりません。確認すべきは支給開始の勤続年数・支給率・対象範囲の3点で、「中退共加入」の場合は掛金水準で実額が変わります。
「退職金制度あり」の表記に惑わされない確認項目
入職前に確認すべき項目は次の通りです。
- 支給開始の勤続年数は3年か、5年か
- 支給対象は正職員のみか、パート・非常勤も含むか
- 計算方法は「基本給×支給率」か、共済型か
- 支給率の水準は規程で確認できるか
面接では「退職金規程を拝見できますか」「支給は勤続何年からですか」と尋ねるのが自然な聞き方です。
「中退共加入」「退職金共済加入」の意味
「中退共加入」は、中小企業退職金共済に事業主が加入しているという意味です。退職金は掛金月額(5,000円〜30,000円の16種類)と加入期間で決まり、掛金2万円・勤続35年で約1,000万円が目安になります。
注意点が2つあります。掛金納付月数が11か月以下の場合は原則として退職金が支給されません。また、加入後24か月未満で退職すると掛金総額を下回る(元本割れの)可能性があり、掛金納付額以上を受け取れるのは加入後3年7か月以上経過してからです。掛金月額は事業主が決めるので、面接で聞いておきたい項目です。
退職金以外の福利厚生も含めた待遇の総合判断
退職金の有無だけで職場の良し悪しは決まりません。年収・賞与・夜勤手当・資格手当・年金制度まで含めて見比べてみてください。退職金がなくても月給が高い職場、退職金が手厚いが基本給が低めの職場など、待遇の構造は職場ごとに異なります。年収は勤務先・地域・経験・雇用形態で変わるため、一つの金額で断定せず、幅を持って比較しましょう。
このH2のまとめ:「退職金制度あり」の裏側にある支給条件と掛金水準を確認し、待遇は総合的に判断しましょう。
看護師の退職金に関するよくある質問
看護師の退職金について特に多い5つの疑問に、公的データを根拠に回答します。勤続3年未満の支給可否、パートの扱い、支給時期、転職時の税金、中退共の実額の5点です。
勤続3年未満でも退職金はもらえますか?
職場によります。平成30年就労条件総合調査の集計では、自己都合退職で支給に「3年以上」を要する企業が56.2%と半数以上を占める一方、「1年以上」で支給する企業も15.0%あります(出典:厚生労働省の調査資料)。国立病院機構をはじめ、一定の最低在職期間を満たさない退職では退職手当が支給されない規定を置く職場もあるため、勤務先の規程で確認してください。
パート・非常勤の看護師にも退職金は出ますか?
就業規則・雇用契約の定め次第です。正職員のみを対象とする職場が多いものの、中退共には短時間労働者向けの特例掛金(月額2,000円・3,000円・4,000円)があり、パートでも退職金が積み立てられているケースがあります。雇用契約書の待遇欄で確認してください。
退職金はいつ振り込まれますか?
支給時期は勤務先の退職金規程で定められるため、規程や総務課で確認が必要です。なお、給与は退職日まで支給されるのが原則で、例えば国立病院機構の「職員給与規程」では「職員が退職したときは、その日まで基本給又は月例給を支給する」と定められています。
転職して同じ年に2か所から退職金をもらったら税金はどうなりますか?
同じ年に受け取った退職金は合算して退職所得控除を適用します。国税庁の計算例では「{(400万円+180万円)-400万円}×1/2=90万円」のように計算されます(出典:国税庁 タックスアンサー No.2735)。「退職所得の受給に関する申告書」の提出状況によっては確定申告が必要になる場合があるため、不明な点は税務署や税理士に相談してください。
求人票に「中退共加入」とあるが、いくらもらえますか?
掛金月額と勤続年数で決まります。目安として、掛金月額2万円・勤続35年で約1,000万円です。掛金は事業主が16種類(月額5,000円〜30,000円)から選択するため、同じ「中退共加入」でも職場によって実額が変わります。なお、掛金納付月数が11か月以下は原則支給されず、24か月未満の退職では掛金総額を下回る可能性がある点も押さえておきましょう。
まとめ|看護師の退職金で押さえるべき3つのポイント
看護師の退職金で押さえるべきポイントは次の3つです。
- 制度は勤務先の設置主体で根本から異なる:国立病院機構・公立・日赤等・民間・クリニック・社会福祉法人で、根拠規程も計算方法も違います
- 目安は勤続10年で約182万〜277万円、30年で約1,675万〜1,771万円のレンジ:制度がある職場は74.9%にとどまる点も前提にしましょう
- 正確な金額は必ず勤務先の退職金規程で確認する:就業規則の確認や、総務課・人事課への問い合わせが確実です
本記事の金額はすべて一般的な制度・統計に基づく目安で、個人の正確な金額を保証するものではありません。退職金と年金(厚生年金の平均月額14万6,429円)の両面から老後資金を設計し、待遇面では年収・手当・福利厚生を総合的に比較して、自分に合った働き方と職場を選ぶ判断材料としてご活用ください。個別の労務・税務相談は、社会保険労務士・税理士等の専門家にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」(2023年)
- 厚生労働省「就労条件総合調査」(e-Stat・令和5年調査)
- 厚生労働省 資料(退職給付制度に関する各種調査の横断整理)
- 独立行政法人国立病院機構「職員退職手当規程」(平成27年規程第25号)
- 独立行政法人国立病院機構「規程一覧」
- 内閣官房内閣人事局「国家公務員の退職手当」
- 国家公務員退職手当法(昭和28年法律第182号・e-Gov法令検索)
- 国税庁 タックスアンサー No.1420「退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」
- 国税庁 タックスアンサー No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(e-Stat・2025年3月公表)
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」
- 東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」(2022年12月公表)
- 東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和6年版)」
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM)「社会福祉施設職員等退職手当共済制度マニュアル」
- 厚生労働省「福祉医療機構融資制度、社会福祉施設職員等の退職手当共済制度」
- 厚生労働省「一般の中小企業退職金共済制度のしくみ」
- 勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部(中退共)Q&A
- 厚生労働省年金局「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(e-Stat)
- 日本看護協会「2024年 病院看護実態調査」(2025年3月31日公表)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号・e-Gov法令検索)
- 日本年金機構
- 中央労働委員会「退職金、年金及び定年制事情調査」(令和3年調査)モデル退職金